研究について
平成28年度も虚血性心疾患、心不全、閉塞性動脈硬化症における病態の解明とその治療への応用を基本理念として以下の研究を計画および継続していく。

 研究概要

1)虚血性心疾患の危険因子である、耐糖能障害、脂質異常に焦点を置いた検討として、患者血清検体や臨床データを用いて検討を行う。
① 冠動脈危険因子である耐糖能障害、脂質異常を持つ患者において、新しい動脈硬化病変の不安定化と関連の高いMT1-MMPの流血中単核球表面における発現とともに検討を行っている。
② 脂質異常と糖尿病を併発する症例における薬剤介入により、動脈硬化不安定化因子の変動に関して検討を行う。
③ 急性冠症候群直後の冠微小循環を、冠動脈内フローセンサーを用い検討を行っており、各種薬剤の冠循環への影響を検討する。

2)心不全患者における心筋代謝、体液性因子に着目した検討を行う。
① 急性心筋梗塞後の詳細な心筋代謝への検討を当施設の高エネルギーセンターと共同研究を行い、急性心筋梗塞後における虚血心筋のみならず非虚血心筋における糖代謝の回復過程の違いが心機能の改善の違いにつながることを検討する。
② 慢性心不全患者における低ナトリウム血症の存在が予後増悪因子であることを、血中MMP-9やIL-6濃度との関連から検討する。
③ 収縮機能の保持された心不全患者(HEpHF)における血清学的検討から構造的リモデリングと内血管内皮機能調節因子との関連を検討し、予後悪化につながるメカニズムをサイトカインの点から検討し、薬剤の介入による予後への影響に関し観察研究を行う。

3)下肢虚血疾患においては、特に重症虚血肢の救肢にかかわる危険因子、特に脂質への介入を通じて内皮機能の改善と、血管予後の改善を通じるかを検討している。

4)地域医療に関しての検討として、ユビキタス救急救命システムを、従来ネットワークシステム(NTT携帯電話網)を用いて確立したシステムを福井県内の救急車に配備し、救急患者搬送システムの有用性を実地において検証し、ST上昇型心筋梗塞患者へのへき地医療における、医療の高度化、平等化への検討を行っていく。

5)基礎検討では、冠動脈形成術施行時、石灰化の有無が血管形成術の成否の重要な因子とされている。血管石灰化のメカニズム解明のため、動脈硬化関連培養細胞(内皮細胞、平滑筋細胞、単核細胞、マクロファージ)を用い1.動脈硬化病変での石灰化過程における、血管壁代謝異常の関与、2.骨代謝関連遺伝子の血管壁石灰化への関与と、骨代謝に影響を及ぼす薬剤の血管壁石灰化に及ぼす影響を検討している。動脈硬化危険因子、特に心血管イベント発症につながる不安定プラーク破綻のメカニズムを検討するため、高血糖下における動脈硬化病変の不安定化と関連の高いMT1-MMPの発現に関して検討を行う。

 業績年の進捗状況

1)虚血性心疾患:①冠危険因子のひとつである高脂血症を持つ症例においては日本人における脂質強化療法の有用性に関して、血管予後と生命予後との関連が高いことが確認された。②福井県における冠動脈疾患患者のレジストリー研究を他の冠動脈形成術施行施設とともに行い、わが県における患者の特性、救命の現状を把握した。③冠動脈疾患患者における冠血管予備能に関して、冠血流予備量比(FFR)と核医学的検査で得られる所見とのかい離におけるメカニズムを検討した。④冠動脈患者における糖尿病治療介入による血管内皮機能の改善にかかわる因子につき検討を行った。⑤下肢閉塞性動脈硬化症の診断率向上のために、運動負荷ABI検査の有用性と、動脈形成術施行における至適療法の決定にこれら方法が有用であることを見出した。これらの結果は第81回日本循環器学会学術集会(2017年3月金沢)にて報告した。⑥冠動脈疾患患者における内皮機能と血清中脂肪酸分画との関連を検討し報告した。この結果はInt J Cardiol誌に掲載された(2016;221:1039-1042) 。⑦冠動脈疾患評価における心筋ストレイン値の有用性をFFRと比較し、壁運動の微小な変化の評価の有用性を見出した。この結果は本超音波医学会第 89 回学術集会(2016.05.29,京都市)にて報告した。

2)心不全関連:①急性冠症候群後の心機能への検討として急性心筋梗塞後の詳細な糖代謝の評価を当施設の高エネルギーセンターと継続して検討を行った。心筋梗塞後の糖代謝と心筋微小循環を心筋PET検査により評価し、この画像をパターン化しそのタイプにより心機能の改善の予見が可能であることを見出した。この結果はJ Nucl Cardiol.誌に掲載された(2016 Jun 14,電子掲載)。②心不全患者の予後に関し、フレイル関連因子や血清中脂肪酸分画との関連が強いことを見出した。この結果を米国心臓病学会 (2016:ACC scientific session. Chicago)にて報告した。③収縮機能の保持された心不全患者(HEpHF)における血清学的検討から構造的リモデリングと内血管内皮機能調節因子との関連を検討し、予後悪化につながるメカニズムをサイトカインの点から検討し、薬剤の介入による予後への関連が強いことを見出した。この結果は第81回日本循環器学会学術集会(2017年3月金沢)にて報告した。④糖尿病を合併した虚血性心疾患イベント後の心機能に末梢血液中内皮前駆細胞数の関与があることを見出した。この結果は欧州心臓病学会学術集会(2016年8月、ローマ)にて報告した。

キーワード

 循環器系医学、循環器系疾患の早期判断、治療  

特色等

 MMPやアディポネクチンの制御による動脈硬化進展の予防,生体イメージングを用いた心疾患の病態解明,心疾患とアポトーシスの関連、さらには内皮前駆細胞など再生医療に関与する分野についての研究を行っている。

本学の理念との関係

 本学の理念である「高い倫理観のもと、独創的でかつ地域の特色に鑑みた医学研究を行い、専門医療を実践する」に合致する。また、医療における本学理念である-最高・最新の医療を安心と信頼の下で-を当科でも基本的概念とし、特に虚血性心疾患・不整脈疾患・心不全における病態の解明に繋がる臨床研究は、世界水準の高度先端医療の開発・実践への大きな貢献となると考えられる。実際に研究成果は欧米にて開催される国際学会、学術論文誌に報告されている。

難治性不整脈と重症心不全の病態生理と予後に関する(臨床)研究

 研究概要

難治性/持続性心房細動・多発性心室期外収縮/非持続性心室頻拍・致死性心室性不整脈・左脚ブロックを伴う重症心不全などをテーマに“臨床における病態の解析、問題点の解明ならびに予後改善のための治療介入“を目的として研究を行っている。

① 難治性心房細動に対するカテーテル・アブレーション後の予後規定因子の同定;
肺静脈近位部を取り巻く左房心筋とその周囲の左房前庭部が心房細動の基質として心房細動の発症と維持に重要な役割を果たしていると考えらえており、心電図同期造影CTを用いて左房の大きさおよび各肺静脈、および左房前庭部のサイズを計測し、アブレーション時の不整脈源性の有無との相関を検討する。さらに心臓造影MRIを用いてアブレーション後の心房筋障害の程度を評価し、その障害の度合いと予後を検討する。

② 心房細動に対するクライオアブレーションの有用性と安全性の検討;
高周波アブレーションに続いて、クライオバルーンアブレーションが登場し、心房細動に対するアブレーション治療はさらに普及し、根治療法として確立しつつある。しかしながら、両者の有用性に関して十分には比較検討されていない。また、クライオアブレーションの最適な施行方法(各肺静脈に何分間の冷却、そして何回冷凍凝固を行うか、何を指標に凝固を行うかなど)も確立されてはいない。本研究では、クライオバルーンアブレーションの有用性を示すと共に、その最適な施行法を確立することを目的とする。 薬剤抵抗性発作性心房細動患者を、クライオバルーンによるアブレーション施行症例と高周波アブレーションによる拡大肺静脈隔離術施行例に振り分け、平均年齢、左房径、アブレーション前の左房の表面積、肺静脈を含めた左房後壁の隔離面積、手技時間、アブレーション後抗不整脈薬がない状態での洞調律維持率を検討する。さらに肺静脈の閉塞を確認する方法について、肺静脈内の圧波形を指標とする方法(圧指標)と肺静脈内に造影剤がプーリングされることを指標とする方法(造影指標)での肺静脈の隔離効果を検討する。

③ 心臓再同期療法における左室多極リードの有用性と安全性の検討:4極リードと従来の2極リードの比較検討
心臓再同期療法の左室ペーシング用リードは,従来2極リードであったため,留置後にペーシング時の横隔膜刺激ペーシングの発生,および左室ペーシング閾値の高値により,リードを再留置しなくてはいけない,あるいは,リード植込み初期にディスロッジが起きやすいことが問題点として報告されてきた.近年登場した左室ペーシング用4極リードはこれらの問題点を改善すると共に,再同期に用いる電極の組み合わせの選択が増えたことから心機能改善により有効な電極の組み合わせの選択が可能となり,心臓再同期療法後の心機能と予後の改善に有用である可能性がある. 心臓再同期療法施行例で2極リード留置群と4極リード留置群の2群で比較検討を行う. 標的部位へのリード留置成功率,ペーシング閾値,横隔膜刺激発生の有無とその回避にリードの再留置が必要であったか,否かを検討.さらに,心臓再同期療法前と後にBNP採血を施行して心機能の経過を観察する.

④ 3次元マッピングシステム・心腔内超音波検査を用いた心室不整脈アブレーション法の確立;
難治性心室不整脈に対する高周波カテーテルアブレーションにおいて、3次元マッピングシステムの有用性が報告されている。近年、CT/MRIからの3次元画像の融合(image integration)に加え、心腔内超音波画像をアブレーション手技に導入し、リアルタイムに心室と焼灼部位を詳細に観察することができるようになった。また、アブレーションカテーテル先端の心筋組織への接触力(コンタクトフォース)をリアルタイムに表示するカテーテルが導入され、従来に比べて、不要な焼灼を減らし、より的確に、かつ十分に標的部位を焼灼することができるよう成りつつある。本研究の目的はこの各種の機器を用いた心室不整脈アブレーションの有用性を確立することである。

⑤ 心房細動の長期持続に伴う心房リモデリング、ならびにカテーテル・アブレーション後の心房のリバース・リモデリングの進展機序に関する研究;
アブレーション治療に際して、焼灼前後に大動脈Valsalva洞・冠静脈洞・右房、および各肺静脈から採血を行い、心筋のリモデリング・障害・線維化・炎症のマーカーである血清DNase I活性とtenascin-C濃度、および他のバイオマーカー(MMP-2、TIMP-2、トロポニンT、PIIIP、TNFα、IL-10、IL-23、BNP、ANP)、高感度CRP値を測定し検討する。

⑥ 心房細動における経口抗凝固薬投与下ならびに抗凝固薬休止時の凝固能への影響の検討;
soluble fibrin(SF)、D-D dimer、APTT、PT、FDPなどの凝固系マーカーを用いて検討。 さらに内皮機能・心筋/血管リモデリングのマーカーであるAsymmetricDimethylarginine(ADMA)、TNF-α、細胞外マトリックス分解酵素(MMP)、Tenascin-Cを用いて内皮機能および心房リモデリングの面より検討。

⑦ 心室性期外収縮頻発時の血行動態悪化機序の解明
心室頻拍時のQRS波形の多形性の発症機序の解明

⑧ 重症心不全に対する心臓再同期療法における各種バイオマーカー測定の意義:各種測定値と血行動態指標、左室線維化量、および症例の予後との関連の検討;
心エコーおよび心臓カテーテル検査でのパラメーターと、前述の心筋のリモデリングのマーカーである血清DNase I活性、tenascin-C濃度、およびMMP-2、TIMP-2、トロポニンT、ADMA、PIIIP、TNFα、IL-10、IL-23、BNP、ANP等のバイオマーカー、高感度CRP値を測定し検討する。

⑨ Adaptive CRTを用い適切なAV delayで左室のみのペーシングを行うことが、標準的な両室ペーシングより予後を改善するか否か各種パラメーターより検討する。

⑩ 深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症において従来治療であるワルファリンを用いた抗凝固療法とDirect Oral Anti Coagulant(DOAC)を用いた治療との予後、治療期間、D-D dimer正常化までの期間を比較検討する。

 業績年の進捗状況

1) 心房細動に対するクライオバルーンによるアブレーション施行症例(CB-group)と高周波アブレーションによる拡大肺静脈隔離術施行例(RF-group)のアブレーション前の左房の表面積は、二群間に差がなかったが、肺静脈を含めた左房後壁の隔離面積はCB-groupの方がRF-groupに比較して有意に小さく、手技時間はCB-groupの方がより短時間であり、アブレーション後抗不整脈薬がない状態での洞調律維持率は、CB-groupで90%(26症例)であり、RF-groupで79%(23症例)であった(p=0.47)。以上から、クライオバルーンによるアブレーションは高周波アブレーションによる肺静脈隔離術と比べてより小さな隔離面積でより手技時間は短いという利点があり、さらに洞調律維持率は同等であり、クライオバルーンによるアブレーションの有用性を示せた。

2) クライオバルーンによる肺静脈隔離術での肺静脈の閉塞を確認する方法について、圧指標と造影指標では圧指標での閉塞確認率は95%、隔離成功率は92%であり、閉塞圧波形が確認された場合の隔離成功率は97%と非常に高く、圧波形の変化を確認することが有効な肺静脈血流の遮断を表していると考えられた。また圧指標群で、透視量(p<0.01)と造影剤量(圧p<0.01)は少なかった。また、肺静脈の閉塞確認率(圧指標、85% vs 造影指標、88%、p=0.54)や閉塞が確認された場合の隔離成功率(p=0.77)は二群間で有意差は認めなかった。以上のことから、圧指標での肺静脈の閉塞の確認方法は、従来の造影指標と同等の治療成績が得られ、透視量や造影剤量が少ない方法であり、より安全であり有用性が示された。

3) 心房細動患者において組織リモデリングを制御する分子の一つであるtenascin-Cの発現が健常人より有意に高値となることが明らかとなり、心房筋の伸展/炎症に伴う心房リモデリングがその機序の一因である可能性が示唆された。さらに心房細動患者においてはtenascin-Cの発現が左心室ではなく、肺-左房間で生じている可能性が示された。さらなる発現部位の同定のため、今後は肺動脈および左房内でtenascin-C濃度も測定してさらに検討する予定である。

4) 発作性心房細動患者と持続性・慢性心房細動患者での血中ADMA濃度を検討したところ、発作性心房細動患者で低くなる傾向がみられ、心房細動の持続期間により心房筋内膜の障害が進展する可能性が示唆された。

5) コンタクトフォース・モニタリングカテーテルを用いた心房細動アブレーションにおいては、コンタクトフォースと心房細動再発との関連が示された。

6) 深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症において従来治療であるワルファリンとDirect Oral Anti Coagulant(DOAC)を用いた治療との比較検討では、D-Dダイマーが正常化するまでの期間はワルファリン群に比し、有意にDOAC群で短縮された。 また30日後にD-Dダイマーが正常化する割合もワルファリン群に比しDOAC群で有意に高いことが認められ、DOACの効果はワルファリンに比し安定していることが示された。

現在、不整脈疾患に対してアブレーション治療や植込み型除細動器治療を施行する症例、および重症心不全に対して心臓再同期療法を施行する症例が増加しており、上記の臨床研究を施行中です。

PAGE TOP